支援記録・モニタリングの負担をAIで減らす手順【匿名化が前提】
2026-08-03
支援記録を毎日つけるだけで1日の終わりが来てしまう、という悩みは、多くの事業所で共通しているはずです。音声入力を一度試してみた職員の方も、ここ最近は増えてきたと思います。ただ、そこで止まっている方も少なくないはずです。話した内容がそのまま文字になるだけで、句読点も言い淀みも残ったまま、結局あとで打ち直す方が早かった。うっかり利用者の実名を話してしまい、慌てて消した。計画の見直しの時期になると、それまでの記録を読み返すだけで午前中が終わってしまう、という話も聞きます。
この記事では、「AIに全部任せる」話ではなく、「匿名化と学習利用オフを前提にした、日々の支援記録の残し方と、計画の見直し材料の作り方」を一般に使える手順として整理しました。使うのはスマートフォンの音声入力とChatGPT、特別な契約がなくても始められるものです。特定の福祉専用ソフトへの乗り換えを勧める記事ではなく、今の体制のまま試せる範囲を中立の立場でまとめています。
この記事はこんな方向けです
- 音声入力を試したことはあるが、句読点や言い淀みがそのまま残って結局手直しの方が多く、続かなかった職員の方
- 支援記録に利用者の実名や状況を書く際、どこまで詳しく書いて大丈夫か迷いながら記録している方
- 計画の見直しの時期になるたびに、それまでの記録を読み返す作業に時間を取られているサビ管・管理者の方
すでに音声入力かAIのどちらかを一度は試している前提で書いています。手順は改めて確認しつつ、「AIに入れる前に匿名化と学習利用オフを済ませておく」ことと、「日々の記録を後で見直せる形に残す」ことを中心に読んでもらえると、そのまま事業所の運用に落とし込める形になっています。
前提: AIに任せるのは"整形"と"下ごしらえ"まで
支援記録は、利用者への支援の事実を残す公的な記録です。何を書くか、何が起きたかの判断はこれまで通り支援員の仕事であり、AIが代わりに判断することはありません。AIに任せられるのは、話した内容を記録として読める形に整えること、そして溜まった記録を後で見直しやすくする下ごしらえまでです。ここを最初に押さえておくと、「AIに記録を書かせて大丈夫か」という不安の大部分は整理できるはずです。
もう一つの前提として、支援記録には利用者の障害の状況や生活面の様子といった要配慮個人情報(障害の状況や病歴など、特に慎重に扱うことが法律で求められる個人情報)が含まれます。個人情報保護委員会は、生成AIサービスに個人データを含むプロンプトを入力する場合、「当該生成AIサービスを提供する事業者が、当該個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること」を求めています(個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」)。無料の一般公開されているAIサービスに実名や特定できる情報のまま入れてしまうと、この観点から個人情報保護法違反に問われるおそれがあるため、匿名化に加えて「学習利用オフの設定」をAIに入れる前の手順の一番手前に固定します。個別支援計画の下書きをAIで時短する手順と同じく、この考え方はこの記事でも変わりません。
AIに入れる前にやっておくこと
AIに記録を入れる前に、次の2つを済ませておきます。
- 学習利用をオフにする: ChatGPTの無料版・Plus版は、初期設定のままだと入力内容が学習に使われる可能性があります。設定 →「データコントロール」→「すべての人のためにモデルを改善する」をオフにしてから使い始めます(2026年8月時点・OpenAIヘルプ)。法人向けのTeam(現Business)/Enterprise/Eduプランは、初期設定で学習に使われません(OpenAI Enterprise Privacy)。この設定は端末ではなくアカウントごとです。職員が増えて2人目、3人目が使い始めるたびに、そのアカウントで同じ確認をします。1人が設定したから事業所全体で安全、にはなりません。
- 記号と実名の対応表を分けて管理する: 後で正式な記録として実名に戻すために、「Aさん=◯◯さん」の対応表が必要になります。この対応表はAIに入力する経路とは完全に分け、事業所内の紙のノートや、AIアカウントとは別に管理しているファイルに、限られた職員だけがアクセスできる形で保管します。対応表を持ったままの記号化は、個人情報保護委員会の整理では「匿名加工情報」ではなく仮名加工情報(または通常の個人データ)にあたり、原則として第三者に提供することはできません(委託・事業承継・共同利用は例外です。個人情報保護委員会 よくある質問)。あくまで「事業所の中でAIに安全に入れるための一時的な記号」という位置づけで管理します。
匿名化してその場で音声記録する手順
学習利用オフの設定と対応表の管理場所が決まったら、支援の場面が終わった直後に、スマートフォンの音声入力(Gboardなど)を使い、話した内容をそのままテキスト化します。Googleドキュメントの音声入力機能も使えますが、こちらはPC版のブラウザ(Chrome/Edge/Safariなど)専用で、スマートフォンのGoogleドキュメントアプリには搭載されていません(Google公式ヘルプ)。事業所の外や移動中はスマホの音声入力、デスクに戻ってからはGoogleドキュメントの音声入力、というように使い分けます。
- 周囲に他の利用者や来訪者がいない場所を選んでから話す。記号化していても、内容そのものは聞こえてしまうため
- 利用者の名前は口に出さず、「Aさんが」「Bさんは」のように記号化した呼び方で話す
- 事実(何をした・何が起きたか)と、支援員が感じたこと(様子・気になった点)を分けて話す
- 話し終わったら、文字化されたテキストにその場で目を通し、うっかり実名や特定できる情報が混ざっていないか確認する

音声入力は、話した通りにそのまま文字になるため、句読点がなかったり、言い淀みがそのまま残ったりします。打ち直しは文章を一から入力し直す作業ですが、こちらは文字化されたテキストを貼り付けて読み返すだけで済みます。この差分の分だけ負担が減る、という位置づけでChatGPTに整形を任せます。
以下は、音声入力でそのまま文字化した、匿名化済みの支援記録の下書きです。
これを、支援記録として提出できる文体に整えてください。
・時系列がわかるように整理してください
・事実と、支援員が感じたことは分けて書いてください
・言い淀みや重複した言葉は削ってください
・メモにない出来事や様子は書き足さないでください
---
(ここに音声入力の文字化テキストを貼り付ける)
「メモにない出来事は書き足さないでください」という一文は必ず入れます。これがないと、AIは文章の座りをよくするために、それらしい言葉を勝手に補ってしまうことがあるためです。整えてもらった文章も、あくまで下書きです。実際の記録として残す前に、支援員自身がもう一度読み、事実と違う部分がないか確認します。
最後に、対応表を見ながら記号を実名に戻し、事業所の記録様式へ転記します。就労継続支援B型のサービス提供記録は、提供の都度、内容その他必要な事項を記録し、支給決定を受けた利用者本人から確認を受ける必要があります(指定障害福祉サービス基準 第19条・第202条で準用)。記号のままでは誰の記録か特定できず、この確認の手続きが成立しません。実名に戻した記録は、サービス提供の日から5年間保存する義務があります(同基準 第75条第2項)。「AIに入れるときは記号、事業所の記録として残すときは実名」という役割分担を、手順の最後に必ず入れておきます。
記録の安全を詰める("なんとなく"を卒業するポイント)
1. 話す前の匿名化を習慣にする
音声入力を始める前に、利用者の呼び方を「Aさん」「Bさん」に決めておく習慣をつけておくと、話しながら実名を口にしてしまう頻度が大きく減ります。対応表は前述の通り、AIに入力する経路とは分けて、限られた職員だけが見られる場所で管理します。
2. 職員間でルールをそろえる
「匿名化した上での音声記録・AI整形はよいが、診断名や具体的な病歴はそのままテキストに残さない」といった線引きを、一部の職員の裁量に任せず、事業所として決めておくことが大切です。担当者によって扱いがばらつくと、どこかで実名や特定できる情報が混ざったまま記録が残るリスクが高まります。
3. AIが整えた文章も鵜呑みにしない
ChatGPTに整えてもらった記録は、あくまで音声入力の下書きを読みやすくした結果です。実際に支援の場にいた支援員が、内容が事実と合っているかを必ず確認してから、正式な記録として残します。この確認を省略しないことが、精度を保つ一番の勘所です。
4. 保存期間を事業所のルールに組み込む
音声入力の文字化テキストや、AIに整形させた下書きも、正式な記録の元になる資料です。正式な記録に転記した後は下書きを残さない、あるいは記録と同じ期間・同じ場所で管理する、といったルールを、記号化のルールとあわせて決めておきます。
モニタリングの正しい理解と、日々の記録の活かし方
ここで、モニタリングという言葉の意味を正確に押さえておきます。指定障害福祉サービス基準では、少なくとも6ヶ月に1回以上行うのは「個別支援計画の見直し」であり、モニタリング自体は継続的に行うものとされています。基準では、利用者・家族との連絡を継続的に行い、定期的に利用者に面接すること、そして定期的にモニタリングの結果を記録することが求められています(指定障害福祉サービス基準 第58条第9項・第10項。B型には第202条で準用されます。e-Gov 法令検索)。つまり「6ヶ月に1回だけ記録を振り返ればよい」わけではなく、期中も定期的な面接記録・モニタリング結果の記録を残す必要があります。
実際、運営指導では「定期的にモニタリングを行っていますか」が確認項目を補完するヒアリング例として挙げられています(厚生労働省 集団指導・運営指導マニュアル(令和8年6月) 4.10.4)。聞かれたときに、期中の記録を出して答えられる状態にしておきたいところです。
ここまでの手順で残した日々の支援記録は、このモニタリングの結果そのものではありません。あくまで、計画の見直しのタイミングで「この利用者について、この間どんな変化があったか」を振り返るための材料です。匿名化済みの日々の記録を利用者ごとに1つのファイルへ蓄積しておけば、見直しの時期にその蓄積分をまとめてAIに読み返してもらい、材料をすぐに揃えることはできます。ただし、期中に必要な定期的な面接とその記録そのものは、この蓄積とは別に、これまで通り実施・記録する必要があります。
記録を"計画の見直し"まで繋げる(Claude Codeで一段上へ)
一度この流れを事業所の型として決めてしまえば、見直しのたびに過去の記録を1件ずつ読み返す作業は減り、担当が変わっても同じ品質で振り返りの材料を用意できるようになります。この考え方は、支援記録だけで終わりません。匿名化と学習利用オフのルールを一度決めておけば、個別支援計画の下書きや、工賃向上のための作業内容の振り返りにも、同じ仕組みをそのまま使い回せます。
僕が普段使っているAIの作業環境(Claude Codeというツール)では、こうした匿名化・蓄積のルールをテンプレートとして残しておき、次からの記録も同じ手順で処理する、というところまで任せられます。こうした「自分たちの事業所の記録の残し方・見直しの時期・匿名化と学習利用オフのルールに合わせた仕組みの設計」は、事業所ごとに前提が違うため、記事だけで一般化するのが難しい領域です。Claude Codeの導入・設計から伴走します。
よくある質問
音声入力はどのスマホでも使えますか?
Android・iPhoneのどちらにも、標準のキーボードや音声入力機能が搭載されています。特別なアプリを追加でインストールしなくても、まずは今使っているスマホの音声入力機能から試せます。
運営指導(旧・実地指導)で記録の残し方が問題になりませんか?
支援記録として何を書き、どう残すかという中身の判断は、AIを使っても変わらず支援員・サビ管の責任です。AIは音声入力の下書きを読みやすく整える道具であり、記録の作成・確認という手続きそのものを省略するものではありません。記号のまま記録を残すと、誰の記録か特定できず記録不備と評価されるおそれがあるため、実名に戻して事業所様式へ転記する工程を必ず入れてください。運用の細部は自治体によって判断が異なる場合があるため、迷う場合は所轄の自治体に事前に確認しておくと安心です。
パソコンが苦手な職員でも始められますか?
スマートフォンの音声入力とChatGPTの画面だけで始められます。まずは1人が匿名化しながら音声記録を試してみて、慣れてきたら他の職員にも広げる、という進め方が現実的です。
まとめ、そして次の一歩
支援記録の負担は、多くの事業所で「音声入力は試したけど、結局手直しが多くて続かなかった」という形で立ち止まっています。AIに入れる前に学習利用をオフにし匿名化する、AIに整形してもらう、実名に戻して正式な記録として残す、という手順を固定すれば、記録にかかる負担は減らせます。そのうえで、計画の見直し材料としての蓄積と、期中に必要な定期的な面接・記録は別物であることも、あわせて押さえておいてください。
まずは1件、次の支援の場面が終わったところで、学習利用オフの設定を確認したうえで、匿名化した呼び方で音声入力を試してみてください。この考え方が身につけば、個別支援計画の下書きや、広報文の作成など、他の業務にも同じ手順を横展開できます。事業所としてのルール化や、仕組み化の相談をしたい場合は、お気軽にご相談ください。
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